糖尿病のコントロールにおいて一番大事なのは、食事療法です。
口から入る摂取量が多ければ多いほど、細胞の中に取り込むためにはたくさんのインスリンが必要になってしまうからです。
1000kcalの食事やスイーツを摂るのは、とても簡単。
でも、その1000kcalを運動だけで消費しようとしたら、ハーフマラソンくらい走らないとなりません。
日頃からトレーニングしている人でない限り、そんなこと急にできませんよね?
だから、糖尿病治療においては食事療法が一番の要なのです。
では、頑張って節制して食事療法を徹底するなら、運動はしなくてもよいでしょうか?
摂取量を減らしたのなら、理論上は細胞に取り込みきれずに血液中に漂ってしまう糖は減るはずですね。
いいえ、それだけではダメ。
運動療法には、食事療法にはない効果があるのです。
糖尿病になってしまうのは、どういう時だったでしょうか?
それは下の2つの条件がそろった時です。
食事療法によって改善できるのは、①インスリン不足に対してだけです。
正確に言うと、インスリン不足を解消するのではなくて、摂取する量を減らすことで、インスリンを大量に消費しなくても済むようにする、ということです。
日本人は、体質としてインスリンを出す力が欧米人ほどタフではないと言われています。
人種によって糖尿病になりやすい・なりにくいというデータがあり、それはインスリンを出し続ける力があるかどうかという、遺伝的要素を多分に含んでいます。
タフではないからこそ、食べたいだけ食べていたら膵臓が持たない・・・ということなのです。
一方で、②インスリンの効き具合が悪くなることを「インスリン抵抗性の悪化」と言います。
これを改善するためには・・・そう、運動が必要なのです。
運動をすると、インスリンの効きがよくなります。
今分泌できるインスリンの効き目を高めることで、「効率よく血液中の糖を細胞内に引き込む=血糖・HbA1cを下げる」のです。
もともとインスリンがタフではない日本人。
さらに今までの生活習慣によって膵臓もだいぶダメージがかかっている・・・。
その上にインスリンの効きが悪いとなると、糖尿病は悪化の一途をたどります。
そこで、食事療法と併せて運動療法を取り入れることで、糖尿病を発症・悪化させてしまう2つの条件①②の両方を改善させることができるのです。
実は、運動療法の効果はインスリン抵抗性の改善だけではありません。
運動の行う時間を工夫すると、その効果は更に上がります。
糖尿病予備軍の人は、空腹時血糖は正常でも食後だけ高血糖になっていることがあります。
食後2時間を目安に運動を取り入れることで、血糖の高くなる時間にカロリーを消費しますから、食後高血糖を下げる効果が期待できるのです。
運動といっても、息があがって仕方ないくらいのハードな運動をする必要はありません。
少し脈拍が上がる、息が軽く上がる程度の運動でいいのです。
この条件を満たすのは、ウォーキングが最適でしょう。
その代り、1回で最低でも30分は続けて欲しいですね。
運動療法を取り入れたら注意してほしいことがあります。
糖尿病の人が運動をする目的は、体重を減らすことではありません。
インスリン抵抗性の改善と食後高血糖の改善です。
ですから、体重が思うように減らなくても大丈夫。
実際、運動を毎日続けていると、「体重変化はなくてもHbA1cは下がる」という研究データがあります。
糖尿病は目に見えず・自覚症状もなく進行するもの。
逆に考えれば、コントロールが付いてきて良好な状態も、目に見えず・自覚症状がないのです。
お風呂あがりに体重計に乗って、一喜一憂していませんか?
肥満予防も大切ですが、糖尿病のコントロールは体重よりも、HbA1cで評価しましょう。
糖尿病を発症する人は、生活習慣に運動が組み込まれていない人が多いですよね。
そんな人がいきなりランニング!水泳!とすると、ハードルが高くてすぐに挫折してしまいます。
一番大切なのは、運動強度よりも続ける習慣。
まずは30分程度のウォーキングから始めてみましょう。
参考文献「科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン2013」
監修:宮座 美帆
経歴&活動:
平成25年 臨床工学技士の資格取得。
同年より、広島大学病院に勤務し循環器・呼吸器・代謝内分泌などの疾患を対象に多くの仕事に従事し経験を積む。
現在は医療に関する執筆・監修をこなす医療ライターとしても活動中。
病院・クリニック・企業のHP内コラム等も担当し、読者のみなさまが「病院を受診するきっかけ」作りを積極的に行う。